2026年10月14日(水)、区民・産業プラザ(Coconeri)ココネリホール東側にて、ネリマ水曜会10月定例会を開催しました。今回は東信水産株式会社 代表取締役社長の織茂 信尋(おりも のぶつね)氏をお招きし、「老舗鮮魚店4代目の挑戦 ― 業界の常識を変える事業改革とデジタル活用 ―」と題してご講演いただきました。
講師プロフィール
1984年生まれ。東京工科大学バイオニクス学部(現・応用生物学部)卒業、同大学院修了。総合商社勤務を経て、2011年に東信水産株式会社へ入社。営業企画部(現・商品企画部)を経て、2017年1月に代表取締役社長に就任。実践女子大学で水産消費・フードビジネス分野の教育・研究に携わるほか、東京商工会議所DX推進委員会、水産庁の関連会議等でも活動されています。2026年7月、東京工科大学客員教授に就任。著書に『魚屋は真夜中に刺身を引き始める―鮮魚ビジネス革新の舞台裏―』(ダイヤモンド社、2019年)があります。
第1部 セミナー
商社時代から鮮魚の世界へ
織茂氏は商社の水産部門で社会人生活をスタートされました。1年目はノルウェーでシシャモの雄雌を選り分ける仕事から始まり、その後は長崎県の離島で行われたマグロ養殖場の立ち上げに関わるなど、現場で魚と向き合ってこられました。
闇市から始まった老舗鮮魚店
東信水産は1949年、杉並区荻窪の闇市から始まりました。1950年代に先代(織茂氏の祖母)が定めた社是には「誇りある鮮魚界のリーダー」「時代のニーズに応える」「食文化を切り開く創造集団」という言葉があり、伝統の技術を受け継ぎながら新しい商品やサービスに挑み続けることを大切にしているそうです。現在は荻窪本店のほか、伊勢丹新宿店・三越銀座店などの百貨店に出店し、富裕層向けの鮮魚店として売上を伸ばしています。
魚離れの本当の理由と「鮮度」の話
魚は体に良い食材だと示すデータを紹介されたうえで、国内の魚の消費量は2001年をピークに急減し、2011年には肉に逆転されたという話がありました。この時期は共働き世帯が増え、専業主婦世帯が減っていった時期とぴったり重なります。消費者の約9割は「魚が好き」と答えていることから、魚離れの本当の理由は「調理に手間がかかること」だと指摘されました。
続いて、鮮度の指標である「K値」を使った独自の研究も紹介されました。刺身の盛り合わせ全体で鮮度を比べた初めての研究で、プロセスセンターで切った刺身は店頭で切ったものと同等か、それ以上に鮮度が良いという結果が出たそうです。一方で、熟成させると旨味が増す魚もあり、「鮮度」と「おいしさ」は必ずしも一致しないというお話も、とても興味深いものでした。
魚屋のDX ― 紙とペンからiPadへ
後半はデジタル活用のお話です。まず、IT化・クラウド化・IoT・AIといった言葉を順に整理されました。そのうえでDXとは「データとデジタル技術を活用し、業務や組織、企業文化まで変革して、企業をバージョンアップさせること」と説明されました。また、東京商工会議所が1,128社を対象に行った「中小企業のデジタルシフト・DX実態調査」も紹介されました。
東信水産では2012年まで、3枚綴りの伝票を店長が手作業で処理していました。「魚に詳しく接客が得意な人材が、裏で伝票整理に追われているのはもったいない」との思いから、2013年に全店へiPadを導入されました。受発注システム「フィッシュオーダー」は自社で開発したものです。2015年には勤怠管理の「フィッシュスケジュール」、2018年には加工場の工場管理システムが加わり、社員ポータルも整備されて、仕入れと人件費を見える化する仕組みが出来上がりました。
パソコンではなくiPadを選んだのは衛生面が理由です。ネズミにかじられるコードがなく、熱を持たないので虫も寄りつかず、アルコールで拭けば清潔に保てます。社内のサーバーには「サバ」「アジ」など魚の名前が付いているという楽しいエピソードもありました。
これからは「人とAIと人」
今後は蓄積した販売・受発注データをAIで分析し、売り方の提案に活かしていく構想です。その一方で、今年10月に「接客販売チーム」を立ち上げたことも紹介されました。接客から得た情報もデータとして集め、人とAIと人が協力して、お客様へのより良い提案につなげていきたいとのことです。「人と人とのつながりの中にデジタルを入れていくことが一番大事」という言葉が印象に残りました。
第2部 懇親会
セミナー後は講師を囲んで懇親会を行いました。魚の話からDX、AIまで話題は尽きず、和やかなひとときとなりました。
織茂様、貴重なお話をありがとうございました。






